それでも違うと言うことを

「全会一致するものは無効とする」と言う格言はユダヤ人のことわざであるとか、そうでない俗説である、という話もあり、さてどうなんでしょうか、と思う中、それでも違和感を感じた事について、異議の旗を振り続けることにAnalysisをするモノとしての矜持がある気がするのです。

  

日米ともにEquity Marketにおける株価の回復は凄まじいものがありますね。本日も日経平均は上げて終わりましたか。凄まじいですね。22,695円、この水準って、去年の4Q辺りの水準で、「来年はいよいよ五輪ですね」という期待感が膨らんでいた頃ですか。その水準まで最早あっという間に回復してしまいました。

 

あの当時、インバウンドは好調、経済も楽観的で消費増税の影響も各種施策のテコ入れで何とか乗り切れる、という意見が大半でしたね。失業率も非常に低く、寧ろ人手不足をどうするか?と言う意見が論じられており、就職氷河期世代の救済をどうするか、と言う議論も華やかでしたね。

 

さて、足許、株価は回復基調です。しかしインバウンド観光は壊滅、製造業も一時帰宅などで、メーカーによっては苦戦を強いられ、工場の労働者も会社によっては7割の賃金と。HISはボーナス無し、ホテル従業員も雇ったは良いが、Projectも頓挫し、従業員ごと物件を引き取って欲しい、と言う話も耳にします。

 

上述の通り、足許の実体経済の悪材料と比較した場合、金融マーケット、特に株式市場の堅調さと言うのは驚くべきものがあり、これは釈迦に説法ではありますが、結局、「中央銀行の緩和マネー」と「政府の財政出動(一部は未だ今後実行されるもの)」でで支えられているものです。今後、バブルになって更に株価は上がる、乗り遅れるな、踊れ踊れ、という話が多くなってきた気がします。

 

でもそれは本当に正しいのか、現状はどうなのか。

 

当方の関わる、「カネ」の権化とも言える、不動産のマーケットに関して言えば、必ずしも楽観視は出来ない、一方で、破滅的な局面を迎えるか、と言うと現時点ではそう言えるような兆候は無く、実に複雑怪奇、な状態です。

 

しかし、これを細かく丁寧に分析すれば、単純に踊り続けることがいかに危険で他人のお金を運用する者にとって注意すべきことか、或いは、あまりに恐れすぎて、全てを拒絶するのもまたナンセンスであるか、と言う事が判るような気がします。

 

 

1.不動産及び関連する事項で、以前からの話、Covid19以降の話

 

先日の本Blogエントリーで「不動産マーケット、特に大阪・京都のホテルマーケットでの変調は実はCovid前から存在したものである」と言う趣旨の話を記しました。不動産マーケット全体でも、Covid前からあったトレンドと、これにCovid19が触媒としての役割を果たしたことで、新たに追加された事項があります。

 

Covid19前からあったトレンドとしては、以下の通り。

 

(ホテル)

・一部エリア(大阪、京都等)の一部観光エリアにおけるホテル過剰感

・ホテルオペレーターの身の丈を超えた投資

 

(オフィス)

・オフィスマーケットにおける渋谷エリアの過熱感

働き方改革とオフィスの在り処。つまりシェアオフィスの進行、都心でグレードの高い物件への集約移転(一方で、総賃借面積は減少)

 

(物流)

・物流施設での賃料上昇、空室率の低下

・物流アセットの取引額上昇(プライム立地以外でのCap Rate 3%台)

・E-Commerceの進展による需要拡大

 

(リテール)

・モールの変調

・一部アパレルテナントの不調

・E-Commerceの進展による消費形態の変動

 

 

一方で、Covid19以降の追加事項は以下の通り

・ホテルを中心とした旅行、インバウンド産業の壊滅

 ・商業におけるインバウンドの壊滅

・スタートアップ系のオフィス賃貸意欲の激減

・オフィスの使われ方、Social Distanceによる面積を増やすと言う考えの進展、一方で在宅ワークの強固な推進による賃貸面積を減らすと言う相反するベクトル

 

各要素は夫々ProsConsですので、どちらが適切である、とは言い難いですが、恐らくCovid19前からの歪さに今回のCovid19がカタリストとなって増幅していることが少なくないと考えます。

 

それに新たに出てきた問題。これを踏まえると、足許の「織り込んだ」と称される株価の上昇は正直全くの疑問しか持てない訳です。勿論大暴落、と言ったこともやや、過激であると思う一方、この「上げ」への何とも言えない胡散臭さを感じる次第です。

 

 

2.オフィスマーケットでの動き(変調)

 

ホテル、リテールアセットにおける「変調」は、既に他の方がBlogやnote、有識者・アナリストがレポートを記載しているので、如何に悲劇的か、はここでは割愛する。

 

一方で、今後影響が出てくるであろう、と言われる「オフィス」マーケットに関して言えば、既に気になる動きはあります。これは色々な方からのヒアリング、自分の手元案件といったものからの情報ですが、例えば、以下の通り。

 

・5月以降、特にスタートアップ系のテナントから解約予告が多かった。具体的には、従業員30名程度の会社で、賃貸床面積としては100~300坪程度。

・公表されている空室率よりも、肌感覚では悪いと思う。然しながら、一般的に解約は「6か月前通知」と言った建付けが多数なので、実際は未だ空室では無いため、実感が出ないだけで、実態は深刻。

・小規模スタートアップは、完全リモートワークの導入、を掲げているが、実態は業績やお金の面が厳しいからではないか。背伸びして入居したテナントが、(部分)解約している、という感じである。

・ある部署の分室的な位置づけで賃借しているオフィス、または「飛び地」的に借りているオフィスの飛び地部分(※)の解約も目立つ。

(※)あるオフィス内で賃借しているフロアが仮に3フロアあり、それが10,11,19階で、19階は一部の部分、といった「飛び地」

・リーシングで強力な力を有する住友不動産ですら、今期は厳しい、との声が上がる。

・渋谷、恵比寿エリアでは解約申し出が目立ち、渋谷では特に多い。具体的には渋谷駅から徒歩10分、解約予告100坪以上ある物件は60棟あった。これは、「ある1棟で2フロア解約予告があっても1棟とカウントされる」ため、実際の解約床は更に多くなることが予想される。

・渋谷のオフィス賃料は一時5万円/坪の募集だったが、足許では物件次第乍、3万円乃至それを切る水準も存在する。今回のマーケットの変動で一番賃料の調整が激しいのではないか。

・(渋谷に限らず)大型物件でも、新規竣工後入居で予約契約締結済テナントについても、一部解約の上、床を返す、という申し出もある。

・オフィスタイプとして、中規模ビルで「PMO」のコンセプト的な築浅プレミアム・ミッドオフィス、或いはサンフロンティアが手掛けていたようなリノベーション・セットアップオフィスが苦戦していた(賃料が高いため)。但し、この苦戦はCovid前からである。

・渋谷の他、西側にオフィスを構える新興系大手はオフィス解約をしていない。但し、一般的にこれら企業が入居するオフィスは「定借契約」なので、中途解約を勘案すれば、そのデメリットから「今はない」が、今後契約期限が近付いた際、それを更新しない、という形で空室が顕在化していく可能性がある。

・渋谷において、解約の勢いが強いが、足許話題になった「五反田バレー」の五反田は、渋谷流出したオフィステナントが多いが、未だ解約の流れは本格化していない。また、賃料も下げてはいない。

・ただし、こうしたエリアのテナントは渋谷を諦めて辿り着いた人たち。従って、渋谷で空きが出た場合、そちらに流れる可能性もあり、そうした場合、賃料の上昇は期待薄であるし、二次空室の発生懸念も内包する。

・大企業はオフィス移転を本格化させていなかった。これは、それまで空室が極端に少なかったため、めぼしい物件が無く、止むを得ずの選択だったが、今後業績の悪化、空室が出始めた事によってより積極的にオフィスの移転を検討することなろう。その結果、賃料相場の下落は想像される。

・空室の発生が、上記の業績の悪化を含めて、移転を誘発することになるだろう。但し、Social Distanceの維持と言った社会的要請もあり、グロスを増やさない変わりに賃料単価の低い物件へと移転するインセンティブが生まれるかもしれない。

実体経済が痛んでいるなかで、オフィスの賃料が下がらないとは言い難く、インバウンド関連の観光、飲食から、そうした会社向けのコンサル、システム、広告関連、ITといった先も遅延して影響を受けて、オフィス賃料にNegativeに影響する、少なくとも賃料引き上げは相当ハードルがあがるだろう。

 

 

3.コスト抑制と景気

 

不動産コスト、特にオフィスの賃料は硬直性があるので、これを抑える前に人件費(ボーナス、残業代、昇給の抑制)、経費の削減を先行するでしょう。その上で家賃の削減ですが、こう考えると、国がばらまくお金は限定的で、足りない分がやはり出てきます。その中で、民間が「お金が使える」状態で無いと、結局限定的な効果に留まるでしょう。それでも当然無いよりはましなのですが。

 

例えば、観光業においては、Hotererの記事を見ると、夏の国内旅行客がGo to Travelキャンペーンで増えてくれるまでは何とか生き延びることを念頭に置く、というヒアリングの先のコメントがある旨、記載しています。然しながら、例えば「Covidの再発による自粛令再び」とか、「今後の経済環境の悪化を踏まえ、個々人は手元資金を厚めにする」という事を踏まえると、今まで耐えていた観光業に追い打ちをかける可能性があります。

 

リテールも同様です。レナウンの破綻等、アパレルは在宅ワークの進展や、消費マインドの縮小で特に外出用の服が売れていません。カジュアル化はCovidの前からのトレンドですが、今回のでアパレル各社の一層不透明さか強まったと言えます。小売り・飲食も言うまでも無く、メーカーでも同様でしょう。良いのは一部のリモート絡み程度か。

 

さて、株価はこのまま堅調に行くのでしょうか。私はそうでないと思います。逆に短期間で急激に回復したことは後々副作用が激しいと感じています。株価は明日も上がり、「やい、お前の予想外してるだろ」という突っ込みが入ることを想定しつつも、それでも私は違う事を主張したい。