「i-Bond~第三のお金の置き場」という名の屠殺場

 

日銀緩和の副作用で、Fixed Incomeマーケットが「死んでいる」訳ですが、そこを狙ってか、知らずか、個人のマネーがManeo等のクラウドファンディングに流れ込んでいます。

 

まあ、個人的な駄法螺予言ですが、

 

クラファン、大体死ぬで。将来。

 

うん。間違っていたらごめんなさいね。でも間違えてた方が良いかも。

 

 

さて、ツイッターで見つけた、i-Bondの新規案件、これも中々。。。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000014410.html

 

「不動産から生まれた、お金の第三の置き場」と称していますが、個人的には、

 

おいおい、屠殺場の間違いだろう

 

と突っ込みたくなったので、とりま限界集落ならぬ限界Blogにつらつらと書きあげる。

 

今回は長くなるので、オチは最初に言っておく。

 

「これ買うなら、日本リート買っておきな、旦那」

 

 

本件の特徴を列挙してみましょう。

  • 私募ファンドの形式である。追加で言えば、ブラインドプール型であり追加取得可能なファンド形式。Call(出資持ち分の買い戻し請求権)は何時でも可能と銘打っている。
  • ファンドでは、レバレッジ(借入=debt)を引かず、優先出資と劣後出資で資金調達を行う。優先も劣後もすべて募集しているので、アセットマネージャー(AM)であろうマリオンは一銭も基本金を出す旨、記載が無い。
  • 優先劣後とも、予定分配率は年1.5%である。劣後の場合、Exitの際の売却益を享受できるが、売却時における売却損が発生した場合、1st Lossは劣後から喰らう。
  • 運用期間に期日は無い。
  • 出資者以外も確認できるHPでは鑑定評価額は判るが、Net Cash Flow、即ち、当該不動産から発生したCash In-Outを差し引いた手残りが判らない。従って、Cap Rate、利回りが判らない。
  • 物件は札幌の「桑園」駅徒歩3分のマルチテナントレジ。2007年築。

 

まず①について。

ブラインドプール型、且つ追加取得型であると、一番最初に投資した投資家からすると後で取得する物件がどれか、と言う事が判らない。従って、後々、クソな物件を取得されると、そのクソ物件取得時に募集した投資家が喰らう可能性が高いとはいえ、コミングリングへの手当等考えると、利回りが低くなる可能性が高い。また、Callは何時でも応じる旨、記載あるが、手元資金はどうするのか。仮に配当にかなり流している場合、或いは償還要請が一度に来た場合、応じないと書いてあるように、流動性には疑問符が付く。下手を打つと南欧国債よりも流動性に疑問符が付く。

 

②について。

レバレッジを引いていないため、Debtへの利払い不履行とかDSCRテスト、LTVテスト、その他Financial Covenantsのプレッシャーは無い。またdebtのリファイナンスリスクも無い。まあ、これは評価できる。

但し、注意したいのはAMたるマリオンは優先出資又は劣後出資ともに出資する旨の記載が無い。普通、私募ファンドの場合、年金基金や大切な客を扱っているときは特にAMがそれほど多額で無くても、同じく出資するケースが多く見受けられる。一般的にSame Boat出資というものであるが、これは三菱地所投資顧問といった財閥大手でも同様である。逆にこれが無いと、怪しまれるケースも多い。アセットタイプは異なるが、米国のCLOであれば、AMはボルカールール上、最劣後エクイティなどに一定程度の比率で出資を義務付けられる。翻って、殊、本件の様な一般個人投資家の資金を預かるAMが出資する旨、記載が無いのは少々特異に見受けられる。結果的に劣後出資することはあるかもしれないが。。。。

 

③について

普通、優先・劣後に切り分けたときに、それぞれの「利回り」には差異が付く。当たり前である。と言うのはリスクが異なるから、それに対するリターンも異なる。本件の場合、最終的に物件を売却した際に利益が出たらその利益は劣後エクイティが享受する建付けになっている。それは確かにエクイティの優先劣後構造があると言えるが、基本的には期中の利回りにも差があってしかるべきで、それが無いと言うのは、違和感がある。また、そもそも、予定配当率が優先であれ劣後であれ、1.5%は低い。劣後エクイティであれば売却益を狙えると言え、それでも低い。あと、IRRでの記載が基本である。確かに個人投資家にIRRで述べても理解度に差があるとは言え、クラウドファンディングを考える層にこの数値での説明が無いのは甚だ疑問である。ちなみに、小生が実際に投資しているケースでは優先で4%以上、劣後であれば7%以上であって、これを下回るのは何らかの理由、出口が堅い、REITからのLOIがある、という特殊ケースであり、レジとは言え、札幌のプライムエリアと言えない物件で、出口第三者売却であれば、この利回りは瞬時にNoである。

 

④について

運用期間に予定期限が無い事はメリットとデメリットがある。つまり、期限があるとマーケットが不芳の際にも売却を強いられるので、売却損が出ることが多く、劣後出資のみならず、優先出資まで損失を被る場合が多い。一方、本件の場合、予定期限も無く、制約となりうる、Debtのリファイナンスも無いので、時間を味方につけられる、という点では明らかにメリットである。一方、上述のように、期限が無いため、基本的に投資家がExitしようとすると、マリオン宛てにCallを掛けるしか無く、その時のMarket次第で損失を被ることやそもそも、換金が出来ない、という事もあるので、流動性に劣る。

 

⑤について

これは、投資申込ページに記載があるのかもしれないが、物件のCash Flowが判らない。これでは、物件取得価格、或いは鑑定価格に対する利回りが判らない。仮にNCFが弱い場合、鑑定評価に対するCap Rate、即ち利回りは極端に低くなる可能性がある。従って、Exitをしようにも、Marketで売却しうるCap Rate水準から劣後した場合、売却損が出てしまう、従って、売れない、という事態が起こる。上記の通り、Debtを引いていないので、Exitのタイミングがずれるリスクは低減されているが、いざCallを掛けようにも換金が出来ない、或いは投資持ち分の売却時に損失が出る可能性がある。

 

 

⑥について

レジであること、2007年竣工(築12年)と比較的築浅なので、長期の保有には耐えられると推察される。一方、本物件の立地には留意を要する。一般的にレジの場合、賃料設定さえ間違っておらず、且つ場所も都心で有れば、一定の稼働と賃料が維持できる筈と判断できる。

然しながら、本物件の立地は素直に評価出来る立地であるか、という点に疑義が生じる。土地勘が無い人であれば、札幌駅から一駅で最寄駅から3分のレジに何が問題なのか?という考えもあるが、札幌に土地勘がある人であれば、「賃貸マンションに住むことを検討する人は一番最初に考えるのが、「地下鉄」駅からどのくらいか」ということに思いがつく。これは「関西に置いてはJRより私鉄の方が強い」という事例に似ている。

従って、賃貸レジ立地としてはプライムとは言い難く、よって、価格競争を強いられる可能性がある。札幌に賃貸マンションに住む、写真を見る限り、単身者又はカップルと想定すると、桑園と言う地を第一候補にする理由は特になく、賃料いかんになるだろう。従って、将来的なNOIの下げリスクは十分にあり得るため、利回りの低下、或いは劣後出資における売却損、Exitの超長期化は十分に想定しうる。

 

 

以上より、i-Bondについて愚考してみると、とてもとても、お金の第三の置き場とするには正直しんどいです。

 

日本リート買うか、どうしてもBondが欲しいなら、ハゲCEOが率いるやわらか銀行社債でも買った方が良いです。マジで。